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最高裁判所第一小法廷 昭和45年(あ)448号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人星 二良の上告趣意第一、第二および同第五は、違憲をいうが、実質はいずれも単なる法令違反の主張であり、同第三および同第四のうち大審院の判例違反をいう点は、所論の事項についてはすでに最高裁判所の判例(昭和二八年(あ)第四一九一号同三〇年一二月三日第二小法廷決定、刑集九巻一三号二五九六頁、同三七年(あ)第七九号同三九年六月三〇日第三小法廷決定、刑集一八巻五号二三六頁)が存するのであるから、判例違反の主張として不適法であり、同第四のうち最高裁判所の判例違反をいう点は、原判決は、なんら所論引用の各判例に相反する判断を示したものではないから、理由がなく、同第六ないし第九は事実誤認、単なる法令違反の主張である(記録に徴し、所論被告人の供述調書に任意性を疑うべき証跡を認めがたいとした原判断は、相当である。)。

なお、国家公務員共済組合法三六条、一一条に基づいて定められた同共済組合連合会運営規則一七条によれば、理事長が同連合会の職員の任命者であるとされているところ、同連合会人事規程四条四号本文には、年令六〇歳をこえる者を職員に採用することができない旨定められているものの、同規程一〇条本文は、労務者以外の職員につき年令六〇歳に達したときはこれを免職させることができる旨規定して、定年免職させるか否かを任命権者である理事長の裁量に委ねているほか、さらに同連合会退職手当支給規程五条二項、三項等によれば、特別の場合には定年に達した職員でも引き続き勤務させる場合のあることを予定して、その要件等を定めていることからすると、定年に達した者の任命も、右理事長の権限の範囲内に属する事項であることは明らかである。そうすると、被告人後沢は、理事長の正当な任命権に基づいて、同連合会の嘱託、営繕課長として定年をこえて引き続き勤務することを命ぜられたものであり、そのうえで連合会施設の設計、工事に関する指名業者の選択、入札、監督、検査等の事務に従事していたものであるから、同被告人の地位は同法三六条、一三条にいう「連合会に使用され、その職務に従事する者」にあたると解すべきである。ただ、この場合、嘱託という職名が同連合会の職制規定上明記されていないが、そのことは、必ずしも、右の解釈を妨げるものではない。これと同旨に出た第一、二審判決の結論は、相当である。

また、職権で調査すると、第一審判決は、国家公務員共済組合法三六条、一三条を摘示しておらず、原判決にはこれを看過した違法があるが、これをもって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとは認められない。

よって、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岸 盛一 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三)

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